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2001年09月 乳牛の蹄病とその対策  
2001年08月 暑熱対策について  

 
ユーザ紹介(苫小牧市 五十嵐牧場) 2002年04月
前回は、上川群美瑛町の畑中ファームについて取り上げましたが、今回は苫小牧市美沢の五十嵐農場について、御紹介していきたいと思います。

五十嵐牧場の概要について

五十嵐牧場の高い生産性の秘訣は、”技術”と”気合い”

五十嵐牧場の概要は、現在経産牛70頭でフリーストールの飼養形態をとっています。五十嵐牧場では6年前からフリーストール牛群へ移行し、徐々に乳量を伸ばしフリーストール導入後3年後には11000Kgを越え現在に至っております。
労働形態は、五十嵐氏夫妻、御子息の3人による家族労働と、不定期の研修生1名の労働形態をとっています。
現在の給与体系は、自給飼料としてグラスサイレージを15町歩、コーンサイレージを17町歩栽培し、その他の購入粗飼料はオーツヘイ、ルーサンヘイを購入されています。濃厚飼料は配合飼料(3種類)、ビートパルプ、リンゴ粕、圧ペンコーンの単味飼料と、ビタミン、ミネラル等の添加剤を使用した給与体系をとります。現在の主な牛群成績は、経産牛1頭当たりの乳量11400Kg、乳脂肪3.95%,乳蛋白3.3%,牛群構成の平均産次数は、2.6産となっております。
体細胞についてはやや高い傾向にありますが、分娩間隔は406日であり、繁殖成績は良好で高い生産性を維持しているフリーストール牛群です。

飼料設計について

フリーストールへの移行に伴い飼料設計の依頼を受け、粗飼料の変更に応じて飼料設計を行っています。
例えば、最近行った飼料設計の変更では昨年収穫されたコーンサイレージが例年のコーンサイレージに比較して子実割合も少なく、粗飼料分析におけるデンプン価も低値であったので、この点を考慮し単味飼料の圧ペンコーンの使用を提案致し、現在の給与となっております。このようなコーンサイレージの傾向は、五十嵐牧場のみでなく、昨年収穫されたコーンサイレージの特徴のようです。
五十嵐氏の場合、飼料設計の利用法は、”現在、粗飼料の変動によって変更すべき点は何なのか、また粗飼料変更に伴い自分が給与している現状と飼料設計との間に大きな誤差がないかを知る1つの手段として、弊社の飼料設計を活用するようにしている”とのお話をされています。

搾乳牛舎
チューブ型サイレージバッグ

五十嵐牧場の給与体系の工夫

五十嵐牧場のフリーストールは1群管理ですが、給与体系はセミTMRの形態を取ります。ベースとなるTMRの濃度設定はおよそ40Kgの乳量設定ですが、それ以上の泌乳量の牛はパーラーで2Kgを上限として、配合飼料を給与しています。
五十嵐牧場のパーラーは、以前の繋ぎ牛舎を改良しパイプラインの一部を利用した形態となっておりますので、パーラー内給与の給与体系が可能になっております。
また、フリーストールにおいては、TMRとは別に、オーツヘイのフリーチョイスを行っています。五十嵐氏は、”牛には細かく切断されていない乾草の給与が必要で、産褥の牛などは好んで食べる。また、その選択にもTMRで使用していないような粗飼料を給与する”とのことで、現在オーツヘイを1頭当たり 1Kg程度給与しています。
現在の牛群は群管理ですから、産褥牛や(ただし分娩後3〜4日は、別飼い)牛群のアシドーシスの発生の予防には、非常に効果的な方法であると思われます。

フリーストールの特徴

五十嵐牧場のもう一つの特徴は、土のパドックを備えたフリーストールであることです。五十嵐氏はフリーストールの飼養形態の中で土のパドックについて、
@蹄肢が健康なことが生産性を高めるには最も重要な要因の1つであり、土の上を歩かせることが出来るように土のパドックを選択し、そのことによって蹄の健康が保たれていることや(実際に削蹄は年1回でほとんど蹄の問題はないとのことです。)
Aフリーストールのベッドの数に対して収容頭数が多くなるケースもありその場合でも牛がパドックにでて、休息することにより牛群の過密状況の軽減とストレスの緩和が実現できる
とお話しされています。現在、フリーストールの蹄病は、コンクリート病と表現されることもあり、飼料に関連した蹄病に加え、フリーストールの負重性の問題もクローズアップされ、北海道に於いても、床面に、ゴムマットを使用したフリーストールも作られるようになっています。
また、過密な状況に置かれた、フリーストールでもパドック等の使用で、その状況が改善される場合は、生産性における影響が軽減されることも知られています。

このように、土のパドックを備えるフリーストールの利点が機能し、現在の牛群の高い生産性につながっているのではないかと思われます。

ゆったりとした牛群
つなぎ牛舎を利用したパーラー

もう1つの土のパドックの利点

土のパドックのもう1つの利点として、繁殖に対する利点があります。牛の発情行動をモニターした試験で、土のパドックとコンクリートの上での泌乳牛の発情行動についての比較(ホーズデーリーマン“発情は足場が大切”2000.12月号)の中で、牛が発情行動を示す場合は、土の上を好み、発情の持続(発情行動を見せる時間)も土の上の方が長いことを指摘しています。高い生産性を維持しながら、分娩間隔も400日程の成績である要因の1つに土のパドックが貢献しているのではないかと思われます。

土のパドックと乳房炎について

利点があれば欠点もあります。土のパドックの欠点は、乳房炎の発生が多くなる可能性があることです。泥濘なパドックが、細菌が増殖する場を与え、牛の体が汚れてしまうような管理状況になると、乳房炎の問題が発生してきます。
現在、五十嵐牧場はやや体細胞が高い傾向がありますが、土のパドックの欠点による乳房炎の発生も関与しているのかもしれません。五十嵐氏は、乳房炎の主な原因は、フリーストールのベッドメイキングや、搾乳の方法等に問題があるのではないかと話され、土のパドックは傾斜があり牛が汚れる可能性は少ないので、乳房炎の大きな要因ではないと考えておられます。
そこで、乳房炎の発生の軽減のため、牛床に嫌気性微生物を主体とした堆肥発酵促進剤を使用し、牛床で大腸菌群等の細菌が増えないような対策を行っているようです。

土のパドック
乾乳牛舎

乾乳牛の管理について

乾乳期の牛は、1群管理で、特別な管理は行われていません。乾乳牛舎もフリーストールで、土のパドックを持ち、分娩間近の牛は分娩房へ移動し、分娩後は繋ぎ牛舎を改造した産褥房で3〜4日間程度牛の状態を見て、状態が良いようであれば泌乳群へ移動するシステムをとっています。
この時期に乾乳期治療、ワクチン摂取等を行うくらいで、特別のことはやっていないと話されていました。実際に周産期疾病も多発しておらず、移行期の牛の状態も良好です。乾乳期における現状の給与システムは乾乳期は1群管理であり、給与メニューはグラスサイレージーとコーンサイレージを原物で半々、オーツヘイ0.5Kg程度、配合飼料は約1Kg程度となっています。その他添加剤等は一切使っていないとのことです。
現在、推奨されている乾乳後期の栄養濃度から考えると、クロースアップの栄養濃度としては、低いようです。しかしながら現在アメリカでは”繊維を多く給与し、エネルギーを押さえる”方法や乾乳1群管理など、新しい管理技術が提唱され始めているようです。これらの乾乳の手法についてはまた別の機会にご報告していきたいと思います。
五十嵐氏の話では、分娩後の乳熱等の代謝病が少ないのは、傾斜のあるパドックで、牛をしっかり歩かせ丈夫な筋肉を、乾乳期に作り上げることが乳熱等の予防に役立っているとのお話でした。
乾乳期から分娩後泌乳群にはいるまでの管理の特徴をまとめますと
@牛は一度も繋がれることなく、分娩を迎えること
A分娩房を備えていること
B分娩後3〜4日間は集中的に産褥房で管理されていること
が牛群管理の上で、分娩時の事故を軽減している1つの要因ではないでしょうか。
育成牛についても各ステージごとで5群に群分けされた状態で管理され、泌乳牛、乾乳牛と同様に土のパドックを備えております。五十嵐氏は育成牛についても特に変わったことはやってはいないとのお話ですが、哺乳期間は、3〜4ヶ月間と長いことがその特徴として上げられます。

暑熱対策について

五十嵐牧場では、泌乳牛舎、乾乳牛舎どちらも換気扇は取り付けられていませんが、夏場、暑さで乳量が低下する傾向はみられないようです。これについては、良質な断熱材を利用したことと、風向き等の自然の条件を考慮し、現在の牛舎の間取りや位置を決めたとお話されていました。このような点についてもきめ細かく気を配られているようです。

まとめ

現在の高い生産性を達成するために努めていることについてお聞きしたところ、次のような興味深いお話をされました。

“特に難しいことを考えるのではなく、牛を理解して基本的なことを大切にしていくこと。それは、今の牛群をじっくり観察すれば、牛群の何が問題なのか、何処を改善す れば良いのか解るようになる。また、生産性を高めるには、労働の質、量も高める必要がある。自分より高い生産性 達成している農場は、労働の量、質も高いはずだ。だから、生産性の向上を求めるためにはもっと働かなければならないと思っている”

このような話からも、牛群の注意深い”観察”の積み重ねにより培った“技術”と現状よりさらに高い生産性を求める“気合い(やる気)”が現在の五十嵐牧場の原動力になっているのではないでしょうか。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)