昨年の9月から2001年NRCのTDNの推定式を採用した粗飼料分析法が行われるようになりました。粗飼料分析で新しく追加された項目は、2001年NRCの計算式を用いてTDNを計算するために必要な成分値であり、海外の分析センター(米国、Dairy One等)では、すでに採用されていました。2001年NRCによるTDNの計算式等については、2004年の2月のホームページで紹介しましたが、今回は、推定されたTDNや追加された分析項目について活用するための注意点について考察してみたいと思います。 |
1.新しく追加された、分析項目(TDNの計算に用いる) |
NDFに結合した蛋白質 以前はNDFの一部として分析されていた蛋白質。
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B酸性デタージェント不溶性蛋白(ADICP名称の変更) |
ADFに結合している蛋白 以前は結合蛋白(BP)として分析された。
*注意 粗飼料の種類により、新しいTDN推定式を用いない分析センターもある。
今回、TDNの詳細な式については説明しませんが、2001年NRCの計算式によるTDNの推定値は従来のイネ科のTDNに比較し数%高くなる傾向が見られます。たとえば、8月にTDN56%として、報告されたグラスサイレージが9月以降は推定式の違いで60%として評価される(実際に栄養価が上がったわけではない)と考えれば良いと思います。表1にA分析センターでの実際の分析値と旧TDN、新TDNの推定値を比較しました。
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表1 2001年NRCのTDNの推定式と旧方式との比較 |
番号 | CP | ADF | NDF | ADL(リグニン) | NDICP | 旧TDN | 新TDN | 1 | 8.0 | 39.5 | 67.4 | 4.9 | 3.1 | 53.2 | 58.2 | 2 | 13.0 | 36.8 | 62.1 | 3.0 | 3.3 | 59.5 | 65.5 | 3 | 10.7 | 40.2 | 66.9 | 4.2 | 2.5 | 53.9 | 59.9 | 4 | 14.6 | 33.3 | 57.0 | 2.8 | 3.4 | 59.6 | 63.8 | 5 | 11.9 | 37.6 | 63.3 | 4.1 | 2.2 | 55.9 | 60.4 | 6 | 16.2 | 38.6 | 64.7 | 3.7 | 2.7 | 56.7 | 62.3 | 7 | 15.4 | 38.5 | 64.5 | 4.2 | 3.2 | 56.1 | 60.4 | 8 | 13.2 | 36.6 | 61.7 | 2.7 | 2.5 | 59.7 | 65.5 | 9 | 11.3 | 41.9 | 69.4 | 4.2 | 2.5 | 53.3 | 59.1 | 10 | 5.8 | 40.0 | 66.7 | 3.6 | 3.0 | 54.7 | 60.1 | 11 | 14.4 | 36.6 | 61.7 | 3.3 | 2.3 | 57.1 | 62.5 | 12 | 11.9 | 37.1 | 62.4 | 2.9 | 4.4 | 57.4 | 63.3 | 13 | 12.2 | 38.8 | 64.9 | 3.5 | 2.8 | 56.7 | 63.0 | 平均値 | 12.2 | 38.1 | 64.1 | 3.6 | 2.9 | 56.4 | 61.9 |
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*同じ分析センターの分析値 |
この表からも、いずれのサンプルも新TDNの値が旧TDNに比較して高くなっていることが理解できます。したがって、粗飼料分析値のTDNやNElを直接入力し飼料計算する場合(たとえばスパルタンなどの飼料設計ソフト)は、今回の変更を理解し、注意して用いる必要があります。
2.各分析センターの分析値の相違と飼料設計時の注意点 |
新しく追加された項目の中で、リグニンは、Dairy-One(米国)の分析値やNRCおよびCPMデーリーのブックバリューの値に比較して、低い傾向が見られます。この成分値の違いは、米国と北海道のイネ科牧草の違いによるものか、それとも分析センターの差なのかを知るため、同じサンプル(グラスサイレージ1番)を国内2カ所及びDairy-Oneの計3カ所の分析センターで分析を行い、その比較を図2に示しました。分析の結果、リグニン値はA分析センターで3.1%,B分析センターで4.65%,およびDairy-Oneで5.6%になっています。サンプルの比較は1例のみですが(実際は2番のグラスサイレージも送り同じような傾向になっています。)北海道産のグラスサイレージを用いた分析でも、ほぼ同様の結果が得られました。したがって、現在、リグニンの分析値は、各分析センター間で差があるのではないかと推察されます。 |
表2 グラスサイレージ1番の分析値(分析センター間の比較) |
| | 分析センターA | 分析センターB | Dairy one | DM | % | 28.2 | 31.35 | 27.5 | TDN | % | 65.1 | 61 | 67 | NEl | Mcal/Kg | 1.42 | 1.28 | 1.39 | CP | % | 15.1 | 14.18 | 14.4 | SIP | CP中% | 47.9 | 50.6 | 50 | BP(ADICP) | % | 0.95 | 1.31 | 0.9 | ADF | % | 36.3 | 36.58 | 36.3 | NDF | % | 60.1 | 60.62 | 58.1 | NFC | % | 13.7 | 16.55 | 19.5 | EE | % | 5.3 | 4.44 | 4.4 | 灰分 | % | 8.3 | 8.45 | 7.11 | ADL(リグニン) | % | 3.1 | 4.65 | 5.6 | | NDF% | 5.16 | 7.67 | 9.64 | NDICP | % | 2.4 | 4.24 | 3.4 | | CP中% | 15.89 | 29.90 | 23.61 | カルシウム | % | 0.37 | 0.36 | 0.42 | リン | % | 0.28 | 0.21 | 0.3 | マグネシウム | % | 0.13 | 0.13 | 0.14 | カリウム | % | 2.97 | 2.96 | 3.15 | |
Aリグニンの分析値の差がどの程度、飼料計算に影響するか? |
リグニンの値を用いて飼料計算するソフトにCPMデーリーがあります。このソフトのエネルギー評価は、ME(代謝エネルギー)であり、MEは各栄養成分からTDNを求め、さらにTDNからDE(可消化エネルギー)を算出し、DEからMEを計算する方法をとります。また、蛋白質はMP(代謝蛋白)で評価し、ルーメン内で微生物が合成した微生物の体蛋白とルーメンをバイパスした蛋白の合計をMPとして計算します。このME,MPを求めるため、基礎データーとしてリグニン、NDICPの成分値が必要です。これまでは、米国の分析センターの“Dairy-One”に分析を依頼するか、CPMデーリーにサンプルとして入力されているフィードライブラリーの値を参考にしてリグニン、NDICPの値を使う方法を便宜的に行っていましたが、今回、リグニン、ADICP、NDICPが国内で分析されることで、より容易にCPMデーリーを使い飼料計算を行えるようになりました。ただし、前述したようにリグニンの値には、各分析センターで分析値の相違があるようです。そこで、実際にCPMデーリーを用いてリグニンの差の与える影響について比較を行いました。設計モデルは、2産の牛、体重620Kg、設定乳量37Kg、乳脂肪3.8%、乳蛋白3.2%、分娩後日数80日としてB分析センターのグラスサイレージの分析値を使い、乾物摂取量、ME、MPが要求量に対して充足するように飼料設計しました。 |
その後、グラスサイレージをA分析センター(3.1%)及びDairy One(5.6%)のリグニンの値に変更した場合のME,MP期待乳量を比較し、表3に示しました。この結果から、リグニンの値が大きい分析センター(2.5%の差)とDairy Oneでは、ME期待乳量の差が0.7Kgと大きな差が認められました。逆に言うと最もリグニンの低い分析値を使った場合には、エネルギー価を過大評価している可能性があるということです。 |
表3 各分析センターのリグニン値によるME,MP期待乳量 |
| A分析センター | B分析センター | Dairy-One | リグニンの値 | 3.1 | 4.7 | 5.6 | MEの期待乳量 | 37.4 | 37.0 | 36.7 | MPの期待乳量 | 37.4 | 37.0 | 36.8 | |
今回は新しいTDNの推定式と追加された分析項目についての問題点について考えました。結論として、飼料設計に用いる分析値は同じ分析センターで分析された成分値を継続して用いる方が良いのではないかと思われます。もし、変更する場合があれば、分析センター間の分析値の違いを考慮しながら使用する必要があると思います。また、同一の分析センターで分析方法変更が行われた場合も、同様に、変更内容違いを理解して活用することが大切です。
いずれにしても、この様な変更があった場合は、特に牛の反応を注意深く観察して、問題が無いかどうか判断する必要がありそうです。リグニン、NDICPが北海道でも分析され、粗飼料の品質評価の手段として有効に活用できることは評価すべきことです。今後、分析方法の検討が進み、各分析センター間での差がなくなることを期待しています。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)