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肉牛育成牛について考える 2008年06月
和牛育成の飼養管理方法について

近年、北海道でも和牛の繁殖を中心に飼養頭数が増える傾向にあり、繁殖牛の飼養頭数は、鹿児島、宮崎に続き、第3位になっています。和牛繁殖農家の経営規模の拡大はもちろんですが、酪農家でも一部、和牛繁殖部門を取り入れるケースや、酪農家の和牛の受精卵移植の取り組みなど、北海道では、今後も和牛の子牛の増産傾向は続くことが予想されます。弊社のお客様からも、和牛の育成技術に関する相談が増えてきていますが、飼養管理技術の確立は不十分のようです。
そこで、今回の技術のページは、“和牛の育成期の管理方法”について考えてみたいと思います。

和牛の育成期の管理のポイント
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和牛素牛(肥育用・繁殖用の素牛)は、およそ10〜12ヶ月前後で市場に出荷され、牛の血統や体重、外観、そのときの市場の相場で価格が決まります。価格を決定する重要な要素は血統ですが、やはり、出荷時の体重の重さ(子牛の増体が良いこと)は重要な要素です。体重についても、ただ重いだけではなくフレーム(骨格)がしっかりして、余計な、皮下脂肪が付いていない外観の素牛が好まれます。

今回は育成期の管理の中で
1)初乳の給与法
2)哺乳期から育成期飼料へ給与の移行期
3)育成期(素牛出荷まで)の管理
の3つにポイントを絞り、話を進めたいと思います。

1)出生後の初乳の給与法について

和牛の母牛から初乳を自発哺乳させる場合
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(岡山総合畜産センター研究報告12
2001年より引用)
乳牛の場合と異なり、和牛の場合、分娩後は直接、母牛から自発哺乳させる管理を行っている農場が多くみられます。この場合、特に注意する必要があるのは、品質の良い初乳を十分飲んでいるかが大切です。特に母牛が初産牛の場合は、初乳の量、品質とも不十分なケースもあり、注意が必要です。

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(岡山総合畜産センター研究報告12
2001年より引用)
良質な初乳を生産するためには、母牛の分娩前後の管理も重要になります。母牛から適切な初乳が授乳されたかを判断するためには、定期的に子牛の血液検査等を行い、血中の免疫グロブリンの量を測定することも大切です。
目標とされる血中IgGの指標は最高値が20mg/dlとされ、10mg/dl以下の場合は、下痢等の疾病の発症が多くなることが報告されています。

ホルスタインの初乳を給与する場合
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(北海道立畜産試験場 2005年
研究報告から引用)
酪農家で受精卵移植により、ホルスタインから和牛子牛を出生させた場合、または、規模の大きい繁殖農家は、分娩後直ちに、母親から離し、ホルスタインの凍結初乳かまたは、市販の初乳製剤を給与する管理も見られます。もし、ホルスタインの凍結初乳を給与する場合、和牛の初乳と比較してIgGの含有量が少ない傾向が見られることを考慮し、(表2)市販の初乳製剤も併用する(特に、初産牛の子牛)必要があると思います。

2)哺乳期から育成期飼料へ給与の移行期

哺乳について
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昭和産業 “子牛疾病予防講習会より引用”
和牛子牛の場合でも、カーフハッチや哺乳ロボット牛舎で代用乳(ミルク)を給与する管理が徐々に増えてきています。
和牛子牛はホルスタイン種よりも出生体重は小さく、消化器官の能力の差で下痢等が発症しやすい傾向にあるようです。
子牛糞便のpHの変化(和牛子牛のほうがホルスタインよりpHのばらつきが大きい)

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このような理由で和牛子牛の哺乳期の管理はホルスタインよりもより、きめ細かい管理が必要となります。
基本的には、衛生的な環境で飼育されることが最も重要ですが、ミルク給与時に
1.衛生に取り扱われた哺乳ボトルを用いて
2.各メーカーが推奨する方法で十分に攪拌し
3.決まった時間に
4.同じ方法で
5.一定の温度で
など、基本のルールを守り、給与する必要がありますが、体重に比例した量も考慮し、体重の小さい牛は、哺乳回数を3回以上に分け、少量ずつ哺乳させること、生菌剤や、イソマルトオリゴ糖などを利用することが、下痢発症の軽減に有効と思われます。

スターター・水・乾草の給与について
スターター(易発酵性の炭水化物)の給与はルーメンの絨毛の発達に最も重要です。近年では、“えん麦”のように外皮がある穀類が、伸びた絨毛を“スクラッチ”することでより正常な絨毛の発育を促す効果も報告されています。また水の供給はルーメン微生物の発育のために必要です。ミルクは第2胃溝反射により、第4胃へと送られます。
そのため水の給与を行なわなければ、第1胃に水の供給が出来ないことになり、ルーメン微生物の発育が遅れることになります。
したがってスターター、水は生後1週間程度から、給与すべきです。
また、乾草の給与については、近年、色々な意見がありますが、ルーメンの筋層の発達を促すことや、哺乳中の牛でもハッチ内の麦稈等を食べているケースの報告もあり、早期に乾草を給与する場合はスターターの摂取を低下させない量(約200g程度が目安)を食べやすい形状に切断し、給与したほうが良いと思われます。

3)育成期(素牛出荷まで)の管理

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育成期は、素牛出荷に向けて配合飼料を3Kg程度からスタートし、出荷直前には乾草(またはロールサイレージ)を飽食にし、濃厚飼料は配合飼料を4Kg〜6Kg程度、給与します。
基本的な考え方は、どのマニュアルでも良質の粗飼料を十分食い込ませ、その上で配合飼料を過剰に給与することなく、目的の体重を達成し、評価される素牛を出荷することにありますが、粗飼料の品質の判断について、粗飼料分析を行ない栄養価まで、確認しているケースは少ないのが現状です。
また、配合飼料はCP18%、TDN74%の配合飼料で成分的には同じでも、その他の特徴、例えば、バイパス蛋白質(ルーメン微生物の消化作用を受けずに下部消化管へ移行する蛋白)や、分解性蛋白質(ルーメン微生物に分解され、微生物体蛋白に変えられる蛋白質)の割合、NFC(易発酵性炭水化物 デンプンや糖などで、ルーメン内で、すぐに発酵し、微生物に利用される炭水化物)の割合は異なります。最近では、この分解性蛋白とNFCのアンバランス(分解性蛋白が多い傾向にある)で、尿のpHがアルカリに傾き、そのことが尿石発生の要因の1つとされています。
したがって、配合飼料を選択するときには、TDN、CPの成分のみで、選択せず、その他の栄養成分や、育成期の消化機能も考慮し配合飼料を選択する必要があります。

育成期の配合飼料は
1)嗜好性の良い原料を使っている。
2)ルーメン絨毛を発達させるため易発酵性(デンプンや糖)炭水化物が多く、ルーメン上皮を刺激する穀類が配合されている。
3)ルーメンの発達が十分でない(特に育成前期)ため、分解性蛋白とバイパス蛋白のバランスが考慮されている。
4)抗病性を考慮し、ビタミンA,ビタミンEや亜鉛メチオニン、有機ミネラルが配合されている。
5)粗飼料(例えば、ルーサンキューブなど)も配合され、穀類と繊維のバランスも考慮している。
6)生菌剤などが使用されているもの
などの点に注意し、選択すべきです。

まとめ

哺乳時の疾病の発症の有無や、衛生、環境状況は、子牛の発育に大きく影響します。今回は、子牛衛生プログラムやワクチネーションについては触れていませんが、まずは、感染症、下痢、肺炎などの疾病の発症を防ぐ管理が重要です
その点を改善した上で、現状の栄養管理を再確認し、問題点の改善を行なえは“市場で評価される子牛”の生産は可能です
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)