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ユーザ紹介(美瑛町 畑中ファーム) 2002年02月
今回から、弊社の酪農家ユーザーの紹介を兼ね、技術のページを連載していこうと思います。最初は、旭川支店のユーザーで、美瑛町の畑中ファームについてご紹介したいと思います。

畑中ファームの概要について

畑中ファームの概要は、現在、経産牛103頭であり、繋ぎ牛舎で50頭、フリーストールで 53頭(うち乾乳牛13頭)の飼養形態をとっています。現在の主な牛群成績は、経産牛1頭当たりの乳量10800Kg、乳脂肪4.1%,乳蛋白3.26%,体細胞20万で、優秀な成績をおさめられています。分娩間隔はやや長い傾向にありますが、牛群構成の平均産次数は、3.3産と高く疾病等のトラブルも少ない「牛が健康で生産性の高い」牛群となっております。

給与体系について

畑中ファームでは、5年前にミキサーを導入し分離給与から、セミTMR給与へ変更されました。分離給与時の経産牛1頭当たりの乳量は9200Kg程度であり、セミTMRの給与開始とともに順調に乳量の向上が見られ、TMR開始後1年目には、経産牛1頭当たりの乳量は 10000Kgを越えて現在に至っております。
セミTMR給与開始に伴い飼料設計の依頼を受け、以後粗飼料の変更、牛群の乳成分、乳量等の変化、牛群の変調等など必要に応じて、飼料設計を行っております。
畑中ファームにおける給与体系はコーンサイレージ、グラスサイレージ、ルーサンヘイの粗飼料に配合飼料及び、ビートパルプ、コーン、加熱大豆、綿実、大豆粕等の単味飼料を混合したセミTMRと配合飼料、コーン、加熱大豆をトップドレスする飼料体系をとっています。
セミTMRの栄養濃度はおよそ35Kgの乳量設定を満たすようにして設計され、トップドレスの上限は、配合飼料、コーン、加熱大豆の合計4Kgを上限とし、そのときの乳量設定が45Kgを満たすようになっております。

つなぎ牛舎
フリーストール牛舎

畑中ファームのセミTMR給与体系の特徴

畑中ファームでのセミTMR導入による乳量成績の向上は、適切な切断長と濃厚飼料の混合により、第1胃内環境が安定化したこと、乾物摂取量が上昇したことなどTMR自体の利点もその一因とされますが、セミTMRの濃度設定やトップドレスのやり方、その他の給与体系の中での工夫が現状の成績を可能にしているように思われます。
セミTMRの濃度設計は、35Kgとなっており、やや高い濃度設計となっております。
畑中ファームのように、乳量の生産性が10000Kg以上の牛群では、セミTMRの栄養濃度を高く設定した方が、セミTMRの給与体系としては、より効果的であると思われます。セミTMRの給与体系ではトップドレスは制限給餌となるため、乳量設定以上に乳生産の高い牛は、セミTMRをより多く食い込むことで、栄養濃度を満たし、生産性を維持する事になります。したがって牛群成績の高い牛群に関しては、セミTMRの濃度設定と、TMRの乾物摂取量が重要になってきます。
また、トップドレスに関しても配合のみのトップドレスではなく、加熱大豆、コーンもトップドレスし泌乳牛の栄養濃度に対応する、きめ細かい給与体系も行っております。さらに、その他の給与体系の工夫として牛群の健康のため、TMR給与前に必ず乾草を給与(飼料設計に考慮されていない乾草の給与)し、ルーメンマットを作らせてから、TMR、濃厚飼料を給与することを行っております。このようにTMRとトップドレス以外に乾草を給与する事が、高泌乳群の健康を維持することと、低泌乳群におけるセミTMRの制限給与を可能とし、泌乳後半の過肥の防止に貢献しているものと思われます。

以上のような、セミTMRの導入と、それに伴った細部にわたる飼料給与マネージネントの実行が、毎年「健康で生産性の高い」牛群を達成する原動力になっているのではないでしょうか。

充分な麦稈が敷き詰められた牛舎
トンネル換気システム

それ以外の牛群の特徴

給与形態以外の特徴として、牛の変調(便が軟便になること、飛節等の腫れ等)があった場合、現状の給与状況について聞き取りや、粗飼料の再分析等により、主な原因が栄養的な要因(蛋白質給与の過剰、繊維不足等)とされたとき、飼料設計の変更等で牛群の状態が好転に向かうケースがよく見られることです。
これは、前回のテーマに取り上げた
 @栄養コンサルタントが考えた、「飼料設計による飼料」
 A各飼料原料を「Mixした後の飼料」
 B実際に「牛が摂取した飼料」
の3つの飼料の中で、Bについて農場主である畑中氏が正確に把握されている事が、問題点の解決のポイントとなっていると思われます。それは、牛群の観察、餌押し等の牛舎内の仕事にかなりの時間をかけ、牛の個体ごとの特徴を理解されているので、正確に牛群の飼料摂取状況が把握できるためでしょう。また疾病等の問題が発生したときには、畑中氏の牛群の診療をされている獣医師を交えて疾病の状況、原因として考えられることなど、様々な角度から検討できるような農場であることが、現状の成績に結びついているものと思われます。

深みのある牛
良質の牧草が給与されている育成牛

乾物摂取量の高い牛群のために

畑中ファームではトンネル換気システムを導入し、牛床には十分な量のバッカンが敷いてあり、カウコンフォートの状態が良好なことも、高い乾物摂取量が維持できる要因と思われます。
また初産分娩月齢は、24ヶ月〜25ヶ月であり、良好な、フレームサイズで分娩を迎えているようです。畑中氏は、「乾物摂取量の高い牛作りは育成期の飼養管理が重要だ」との話をされています。哺乳、育成牛は、各ステージごとに、5群に群分けされ、非常に良好な環境で飼養されております。畑中氏の経験から、「自分の牛群では体高、体重よりも牛の深みと幅のある牛を作り上げることが大切であり、それは遺伝形質より育成期の飼養管理によるものが大きい」とのことです。
また、育成牛の栄養管理としては、「特に良質の1番乾草を多給し、2,3番の乾草の給与は行わないことで、十分に発達したルーメンと良好なフレームサイズが実現されているのでは」、と話されていました。

これからの課題として

牛群の乳量成績の伸び、2〜3年前からの暑熱の影響等で平均分娩間隔が、やや伸び気味になっています。今後、弊社も繁殖成績の向上のための手法等について、畑中氏や、担当獣医師とより綿密に連絡をとりながら、さらなる成績の向上のための支援組織として、サポートしていきたいと思います。
飼料設計や給与形態の検討など「目に見えて、数字として把握できること」と、このように行き届いた管理を実現するための「目には見えない畑中ファームのみなさまの日々の管理努力」が、牛群の高い乾物摂取量を確保し「健康で生産性の高い牛群」を可能にしているのではないでしょうか。

最後に

今回は、旭川支店のユーザーである畑中ファームの給与体系と特徴について紹介を兼ね、掲載しましたが、今後しばらくは、ユーザー紹介を兼ね「技術のページ」を連載していく予定です。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)